明版大蔵経


  酉蓮社報恩蔵データーベース公開

>「酉蓮社(旧増上寺報恩蔵)蔵嘉興版大蔵経目録データベース 」

 
ここに公開する「酉蓮社(旧増上寺報恩蔵)蔵嘉興版大蔵経目録データベース 」は、酉蓮社伝来の大蔵経(中国の明末清初刊行)を目録データベース化したものです。
私は2010年以降この大蔵経の調査に取り組み、その間、20123月に目録を、9月に寺誌を作成し、酉蓮社より刊行していただきました。しかし、2012年の目録は簡略な書名目録であり、詳細目録はデータを作成したまま公表できておりませんでした。このたび書名目録および本文の画像データ(一部の経本のみ)と連動させる形でデータベースを構築し、ここに公開させていただく運びとなりました。
酉蓮社はもと芝の増上寺の子院のひとつで、この大蔵経を管理し、増上寺の学僧の利用に供するために創建された寺院です。大蔵経を納める蔵は「報恩蔵」と呼ばれ、大正から昭和の初めに出版された『大正新脩大蔵経』では、その底本・校本のひとつとして、酉蓮社の経本が「増上寺報恩蔵」の名で数多く採録されています。
同時に公開した「『大正新脩大蔵経』底本・校本データベース」は、大正蔵のもととなった様々な寺院、仏教系大学が持つ経本を一覧できるようにしたデータベースです。このデータベースは「酉蓮社(旧増上寺報恩蔵)蔵嘉興版大蔵経目録データベース 」と連動していて、相互に行き来することができます。経本の画像もこれから増やしていく予定です。ぜひご活用ください。
酉蓮社御住職青木照憲師には、調査・目録等の刊行・資料の撮影等にあたり、ひとかたならぬご厚情を賜りました。ここに心より御礼申し上げます。
 

2021年 730
公益財団法人東洋文庫
研究部主幹研究員
會谷佳光拜

  酉蓮社蔵明版大蔵経

酉蓮社には、創建のきっかけとなった宝物である明版大蔵経111箱333函2,350冊が伝わっています。
大蔵経とは、中国で翻訳・著述されたあらゆる仏典を、経(ブッダの教え)・律(戒律)・論(インドの諸師による経・律の注釈書・教義書)、および印度人・中国人の著述に分類・収録した一大叢書で、最初は手書きで伝えられましたが、宋代(960〜1279)に印刷術が発達したのに伴い、盛んに印刷されるようになりました。
酉蓮社の宝物、明版大蔵経は、明代(1368〜1644)に出版された大蔵経のうち、万暦年間(1573〜1620)に刊行が始まった「嘉興蔵」と呼ばれるもので、清代に入ってからも経典の刊行が続けられていました。酉蓮社のものは清の康熙年間(1662〜1722)の刊記(奥付)を持つ経典が多数含まれることから、清代に印刷されたものと考えられます。
増上寺には、徳川家康が寄進した、有名な三大蔵経(宋本・元本・麗本)がありますが、寺宝として厳格に管理され、勉学・修行に励む修学僧が容易に読むことができるものではありませんでした。そこで練誉雅山上人(?〜1757)は、彼らが日常的に閲読できる大蔵経が必要であると考え、この明版大蔵経を招請したのです。
嘉興蔵は日本に40〜50セット輸入されたと言われておりますが、西蓮社のものがどのような経路でもたらされたかについて、はっきりしたことはわかっておりません。一説には浄土宗捨世派の僧、向誉関通上人(1696〜1770)が雅山上人と意気投合して寄進したものとも言われておりますが、この話は浄土宗捨世派が作成した開通上人の伝記にしか見出せず、事実なのかどうか判然としません。
江戸時代には黄檗宗の鉄眼道光禅師(1630〜1682)が刊行した大蔵経が広く普及しておりました。この大蔵経は嘉興蔵を覆刻したものでありましたため、増上寺の修学僧たちは酉蓮社の明版大蔵経を、当時の仏教界で使われていたテキストとして使用することができました。幕末・明治期の著名な浄土宗僧侶で仏教史学者でもあった鵜飼徹定上人(1814〜1891)による書き込みも見られ、よく利用されていたことがわかります。
大正12年(1923)1月に始まった『大正新脩大蔵経』(〜昭和9年(1934)完成)の編纂では、増上寺の三大蔵経とともに底本・校本に採用され、その数はわかっているだけで130点にのぼります。『大正新脩大蔵経』は、今や仏典の世界的な共通テキストとしての地位を確立しておりますから、ここに至って酉蓮社の明版大蔵経は、増上寺の修学僧だけではなく、日本、いや世界中の仏教関係者に多大な思恵を与えることとなったと言えるでしょう。
酉蓮社には、この由緒ある宝物、明版大蔵経の歴史的意義を顕彰し、未来へと大切に守り伝えていく使命があるのです。

  大蔵経の系譜


酉蓮社の明版大蔵経は大正新脩大蔵経の底本にも使用されております。

  酉蓮社蔵大蔵経目録


 
酉蓮社所蔵の明版大蔵経の目録です。PDFですべてお読み頂けます。引用をする場合は出典を明記してください。

>明版大蔵経目録 1.2MB